「拡がる彫刻 熱き男たちによるドローイング」展(第1期)

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7月4日からBBプラザ美術館で始まった「拡がる彫刻  熱き男たちによるドローイング」展は、植松奎二、JUN TAMBA(塚脇淳)、榎忠各氏の近作〜新作を月替わりで個展形式で紹介するというもので、今月は植松氏がフィーチャーされてましたが、巨大な紙に描かれたドローイング数点と、石とスチールワイヤーと鉄パイプによるインスタレーション作品、あとは60年代後半から現在に至るドローイングの小品を回顧展的に並べているというシンプルな構成ながら非常に見応えのあるものとなっていました。

 

植松氏というと、1970年代における、自分自身を被写体として観る側に〈重力〉を感じさせる写真作品が有名ですが、個人的にはその〈重力〉を象徴化しすぎるあまりキッチュでスペイシーな形態の立体やインスタレーションになってしまったという趣の作品にここ数年ギャラリーで接するたびにモシャモシャした気分になってしまうことが多かったもので。そんな視線からしても、今回の出展作は、そういったモノによる象徴化に代えて、「モノと「モノ同士の関係性」を同時に規定する〈重力〉」というインヴィジブルな位相に今一度焦点を当て直し、上述したような最小限のモノの組み合わせによるインスタレーションや描かれた要素の少ないドローイング――そこでは「浮遊する巨石」や「石と構造物が微妙に釣り合っている様子」といった分かりやすいモティーフが巨大な紙に描かれている――によって示すことに全振りしており、氏の表現したいことがこれまでに較べてもはるかにクリアになった印象を観る側に抱かせるようなものとなっています。これが植松氏の最近の作風のゆえなのか、BBプラザ美術館内にいる辣腕の学芸員(←いやいるのかどうか知らんけど)によるスーパーキュレーションの成果ゆえなのかは判然としませんが、展覧会全体で1970年代の写真作品に比肩しうるレベルに達していたと言っても、あながち揚言ではない。

 

《本展覧会は、空間を支持体として、彫刻で描き出すこともドローイングの一種であり、また平面ドローイングも構成によっては、彫刻の一種になりうることを試みるものです》――このステイトメントに端的に表わされているように、「拡がる彫刻」展は会期全体を通して、平面/空間、二次元/三次元といった対とは異なる角度から彫刻を改めて主題化しようという問題意識のもとに企図されており、それは「物質から「物質の様態」への移行」という60年代後半以降に一挙に全面化したモーメント――その代表例が「もの派」あるいは(植松氏も含まれる?)「ポストもの派」である――を、「立体」や「インスタレーション」という語の流行と定着という現象を横目に見つつ再考することでもあると言えるのですが、その際に「ドローイング」という要素を介しているところにこの展覧会の端倪すべからざる着眼点があります。えてしてすぐれた彫刻家は同時にすぐれたドローイング描きでもある(例:ジャコメッティ舟越桂)という事実と、この展覧会が企図し再考しようとしている彫刻概念の拡張とを出会わせる上で、最初に植松氏の個展を持ってきたのは端的に正解であろうと、展覧会を見ながら漫然と思ったのでした。次のJUN TAMBA氏、その次の榎忠氏のも期待しきり。

 

なおこの展覧会に合わせて、会期中何度でも入場できる入場券として缶バッジが発売されておりますので(各氏4種類ずつ計12種類、¥500)、オススメ。