当方的2012年展覧会ベスト10(後編)

当方的2012年展覧会ベスト10(前編)の続きになります。こちらは本当に簡単な感想のみ↓



・辰野登恵子・柴田敏雄「与えられた形象」展(8/8〜10/22 国立新美術館
 管見の限りにおいて、前評判と見に行った人たちの実際の評価が(もちろん良い方向に)これほどかけ離れた展覧会も昨今珍しいのではないか。当方も「具体」展のついでに見に行くかという軽い気持ちで見たのだが、終わってみれば充実したボリュームの出展作と柴田氏の写真作品の魅力にすっかりアテられてしまったわけで。



・笹川治子「Case. A」「Case. C」「Case. D」展(それぞれ6/1〜17、7/6〜7/8、9/1〜17 Yoshimi Arts)
 茨城県在住で、これまで東京を中心に活動してきた――余談ながら当方は昨年東京で開催された「floating view」展で彼女の作品に初めて接した――笹川女史の関西初個展はまさかの三部作。三つとも科学技術(の暴走)や金融バクチ資本主義、管理社会、スペクタクル社会etc……といったトピックを容易に(あるいはかろうじて)連想させるようなオブジェ群からなるインスタレーションという形でしつらえられていたのだが、正面からというより搦手から俎上に乗せた作品が多く、しかもそのヒネリの加え方もなかなか面白かった。今後にますます期待したいですね。



・「〈私〉の解体へ 柏原えつとむの場合」展(7/7〜9/30 国立国際美術館
 60年代なかば頃から欧米のコンセプチュアルアートの日本的形態として生起した「日本概念派」の一角を占める作家として知られる柏原氏。この展覧会では氏の60年代後半から70年代の代表作(《Mr. Xとは何か?》や《方法のモンロー》など)が展示されていた。60年代後半で「〈私〉の解体」というと、あぁまぁ当時はそういう時代だったらしいよなという感想が真っ先に浮かんでくるところだが、「〈私〉の解体」というモーメントが現在に与えた影響はなかなか大きいし、その淵源に遡って考え直すきっかけとしてはなかなか良質。700ページ以上という破格の厚さのカタログも超一級資料度高。



・「館長庵野秀明 特撮博物館」展(7/10〜10/8 東京都立現代美術館)
 展示されていたミニチュアや特撮の撮影技術の紹介、樋口真嗣氏監督によるスペシャルムービー『巨神兵東京に現わる』が話題になっていたが、個人的にはそれ以上に展示物のキャプションの説明文がそれにしてもこの庵野秀明氏、ノリノリである状態だったことに微笑ましくなるやら何やら(爆)。「特撮オタクはアニメオタクの三倍濃い」とは岡田斗司夫氏の弁だが、展覧会とそこに集った人たちを見て感じたのは、特撮オタクという存在が傍目には謎の屈託と韜晦を抱いているっぽいということだったり(40〜50代の特撮オタクがこの展覧会に対していかなる感想を抱いているかは普通に気になる)。例年のように「色彩の魔術師 ジブリの背景画家 誰某の世界」展をやっていた方が東京都立現代美術館的には良かったんじゃないか、とか……(^^;



・「上前智祐の自画道」展(11/3〜12/24(前期)、2013/1/5〜2/17(後期) BBプラザ美術館)
 今年は国立新美術館の「具体――ニッポンの前衛 18年の軌跡」展など、例年以上に大規模な形で「具体」を取り上げる展覧会がまま見られたのだが、ともすると画面やパフォーマンスの派手な作家(白髪一雄、元永定正嶋本昭三田中敦子etc)がフィーチャーされる中でなんとなく傍流扱いされがちだった上前氏に焦点を当てているというところに、この美術館の運営母体であるシマブンコーポレーションの関連会社に上前氏が長年勤めていたことを差し引いても、目の付け所の良さが際立っている。個人的には具体解散後に手がけるようになったという《縫立体》シリーズに瞠目しきり。日本人の平面-立体認識と近代〜現代美術におけるそれとの関係を際立ったものとしてみせるという分水嶺として、この作品は非常に重要であろう。来年早々に始まる後期にも期待。