谷川千佳「冬の融点」展

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 DMO ARTSにて3.9~22の日程で開催されていた谷川千佳「冬の融点」展。谷川女史の個展は同所では二度目になりますが、大作も小品も充実した出来を見せており、なかなか見ごたえがありました。ここ数年、一頃のマニエリスム的な傾向から平明な表現へと移行していて、個人的には好ましさを覚えることしきりでした――その良質な達成として昨年ondoで開催された「約束」展をあげることができるでしょう――が、今回の「冬の融点」展の出展作は、作者自身がかかる表現手法をさらに自信を持って押し出しているのが観る側にも伝わってきており、なかなかポイント高。

 

 かつては画面上にモティーフとして描かれた女性の姿が分裂したり増殖したりしているといった趣の、観る側にファンタスムやオブセッションを容易に連想させるような絵画を集中的にものしていた谷川女史ですが、個人的にはかかる幻想画路線は、悪くはないんだろうけど長く続けるにはしんどいだろうなぁいつか詰んでしまうかもしれないなぁという憾みもないではなかったもので。それだけに、イラストレーションテイストを全面的に導入することによって色使いやモティーフの表現が平明化し、「分裂」や「増殖」といったモーメントをモティーフの姿とは違ったところに置き直して描かれた近年の作品は、ファンタスムやオブセッションが転位された形で描かれることで画面に独特のポジティヴな軽やかさをたたえたものとなっており、画的にも好ましいものがあると言えるでしょう。

 

 ところで今回は、夕景の中の電線や電柱、標識などが描かれた作品が何点か出展されてまして、谷川女史がこのような人工物をそのまま描いているのって、管見の限りでは初めてだったこともあって、ついつい見入ってしまいました。これが継続的に探求されるのかこれ一回限りの実験なのかは即断できませんが(でもあらかた売れてたから、観る側にはかなり受けていたとは言える)、ファンタスムやオブセッションを描くことに対する立ち位置の取り方の上手さとあわせて、目が離せないところです。