2014年 当方的展覧会ベスト10(前編)

 

2014年 当方的展覧会ベスト10(前編)

 年末なので、当方が今年見に行った472の展覧会の中から、個人的に良かった展覧会を現代美術限定で10個選んでみました(順不同)。まずは前編

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 ・「無人島にて 「80年代」の彫刻/立体/インスタレーション」展(9.26~10.19 京都造形芸術大学ギャルリ・オーブ)

※出展作家:上前智祐 笹岡敬 椎原保 殿敷侃 福岡道雄 宮﨑豊治 八木正
 こちらを参照のこと→ 

http://atashika-ymyh.hatenablog.jp/entry/2014/10/07/213813


――で終わってしまうのもアレなのでもう少し続けると、この記事をあげた数日後に行なわれたトークショーに福岡道雄氏が登壇し、デビュー時から「つくらない彫刻家」宣言をする時期までの自作について語ったのは大きな事件だったかもしれない。

 

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・「かたちの発語」展(4.25~6.22 BankART Studio NYK
※出展作家:田中信太郎 岡﨑乾二郎 中原浩大
 田中信太郎(1940~)、岡﨑乾二郎(1955~)、中原浩大(1961~)という、出自も作風も異なる三氏を「「かたち」に対する原初的な感覚から出発した作家」という共通点を持った作家として取り上げつつ、しかし共通点のみならず差異にもキッチリと目配せを効かせて配置していたことに瞠目しきり。原初的な感覚から出発しつつも、作品を成り立たせる諸文脈や様々な時間軸から下される諸判断を織り込むようにして感覚と外界との関係を不断に問い直していく岡﨑氏と、個人的な感覚にあくまで内在し続けることを志向していく中原氏との差異は、依然として現在の美術における大きな争点をなしていると言えるだろうし、この双方のモーメントを共有しつつシャープな形態感覚で作品をスッと屹立させる田中氏を置くというのは、かかる争点に対して批評的に介入するという点から見ても上手いなぁと思うところ。あと、個人的には長年見たかった岡﨑氏の映像作品『回想のヴィトゲンシュタイン』が見れたのがポイント高。それぞれの作家に一冊ずつ作られたカタログも濃厚な内容で、普通にマストアイテム。

 

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・ウィリアム・ケントリッジ《時間の抵抗》(2.8~3.16 元立誠小学校)
 来年京都市内各所で開催される「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭」( http://www.parasophia.jp/ )のプレイベントとして開催されたこの展覧会。《時間の抵抗》は、南アフリカの美術家ウィリアム・ケントリッジ(1955~)が一昨年のドクメンタに出展した映像+インスタレーション作品だが、19世紀末~20世紀初頭という帝国主義まっただ中の時代のイギリスと南アフリカの歴史を様々なレヴェルの寓意的な形象を用いて振り返っていくという濃厚な内容にクラクラすることしきり。しかもポストコロニアルフレームワークの単純な再生産にとどまらない射程を持っていることが直感的に感得できるようにもしつらえられており(影絵劇やフォルマリズム的形象の大胆な導入など)、そこは非常に興味深いところ。ケントリッジ南アフリカ出身-在住の白人であることも微妙に影響しているのかもしれない、と適当に考えてみる。数年前に京近美で行なわれた個展でロシア・アヴァンギャルドへのオマージュ的な映像作品を観たときは「ん!?」と思ったのだが、今回の《時間の抵抗》を観ると、むしろそちら側にこそ彼の作品の本質があるのではないか。いずれにしても、来年のPARASOPHIAに出てくる新作への期待感が高まる。

 

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・「われわれは〈リアル〉である」展(5.17~6.29 武蔵野市立吉祥寺美術館)
 今年も日本の近現代史と美術の歴史とを交差させることが企図された展覧会が各地で開催され、それぞれに興味深い達成が見られた――管見の限りでは「村岡三郎の方へ」(1.7~4.6 豊田市美術館)や「クロニクル1995-」(6.7~8.31 東京都現代美術館)、「挑戦する日本画」展(7.5~8.24 名古屋市立美術館)あたりが(今回のランク外ではあるものの)なかなか興味深かった――が、出展作品や資料/史料の質の高さと、昨今の社会情勢に対する緊張感の高さという点においてはこの展覧会が頭ひとつ抜けていたと言えよう。大正~昭和初期から戦後の1960年代前半に至るまでの時期における〈リアリズム〉という問題系を、美術に限らず文学(運動)やマンガ、オルタナティヴ出版、記録映画といったジャンルにまで一挙に広げて考察することで、〈リアリズム〉が決して過去の問題ではないことが雄弁に語られていたわけで。そして、こういった諸ムーヴメントの担い手や担うことそれ自体を〈リアル〉と捉える認識は、今後この方面について考察する上で、繰り返し参照されなければならないだろう。俺が、俺たちがリアルだ(CV:宮野真守)。

 

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・山田純嗣「絵画をめぐって ―理想郷と三遠法―」展(7.19~8.17 一宮市三岸節子記念美術館)
 古今東西の名画に描かれたものを立体模型化し、それを撮影した写真を製版するという「インタリオ・オン・フォト」なる手法で作品を作り続けている山田純嗣(1974~)氏。美術館での初個展となった今回は雪舟から福田平八郎、ミレイ、モネ、果てはポロックに至るまで、彼らの代表作をモティーフとした平面作品が展示されていたが、上述のように二次元と三次元を往還することで得られたイメージの何とも言い難い視覚感――「2.5次元」とは、本当はこのような作品に対して使われるべきなのだ――にクラクラすることしきり。とは言え、視覚的なトリッキーさだけが追求されているわけではなく、そこには立体・ヴォリュームが平面の中でどのような位置に置かれるかに対するコンセプト的な考察も行き届いていたことも、同時に指摘されるべきであろう(会場では実際に制作された模型も展示されており、山田氏の問題意識を追走することができていた)。「絵を内側から見つめる」という山田氏の試みの今後と合わせて要注目。

 

2014年 当方的展覧会ベスト10(後編)

 続いて、後編です

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・「在日・現在・美術」展(4.18~5.17 eitoeiko)
※出展作家:チョン・ユギョン[鄭裕憬] リ・ジョンオク[李晶玉] チョン・リエ[鄭梨愛] リ・チョンファ[李靖華] チョウ・チャンフィ[曺昌輝]
 朝鮮大学校の美術科に通う学生たちのグループ展という触れ込みで行なわれたこの展覧会。見る前は興味半分恐ろしさ半分といった趣だったが、実際の出展作はきわめて真っ当――と言って語弊があるなら、少なくとも前情報などからこちらがイメージするような作品は出展されていなかったわけで。その意味では、むしろ大多数が日本人であろう観客側の、彼らに対して得手勝手に持つ妄想や欲望が逆照射された展覧会となっていたと言えるかもしれない(それが意図してそうしつらえられたのかは議論の余地があるが)。彼らの、現実の北朝鮮に対する思考や在日朝鮮人としてのアイデンティティのあり方・ありようと、それに対する距離の取り方の複雑さが作品からもかいま見えていた、というとやや我有化し過ぎのきらいがあるかもしれないが、民族意識が自己意識や承認欲求のオモチャと化して久しい日本において彼らの作品に接することは、きわめてクリティカルな経験ではあるわけで。

 

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アピチャッポン・ウィーラセタクン「フォトフォビア」展(6.14~7.27 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)
 2011年にカンヌ映画祭パルムドールを受賞したこともある映画監督で現代美術家アピチャッポン・ウィーラセタクン(1970~)だが、この「フォトフォビア」展は日本での彼の個展としてはこれまでで最大規模のものとなったそうで。彼が生まれ育ち、現在も制作の拠点にしているタイ東北部の風土や風習、(えてして中央から抑圧されてきた)歴史などが渾然となった、詩的かつ暴力的でもある映像作品群は、タイについてよく知らない者的にも非常に見応えがあった。

 

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・「C.C.G.F Creator Creature Gathering Festival」展(11.7~16 旧たき万旅館)
※出展作家:はまぐちさくらこ トーチカ 栗田咲子 谷澤紗和子 佐伯慎亮 大井戸猩猩 いくしゅん 高木薫 谷原菜摘子 Rick Potts 木村まさよ with 月眠 石上和也 坂口卓也 カガマサフミ
 毎年11月に奈良県内各所で行なわれる地域アートイベント「はならぁと」のメイン企画の一環として開催されたこのグループ展。「百鬼夜行」というテーマに沿った作家と作品がチョイスされていたが、会場の旧たき万旅館(生駒市)が趣深すぎたわけで、この会場を選んだ以上で圧勝(←何にやねん)確定ではあり。もちろん作品の方も会場の特異な空間とガッチリ組んだ良作揃いだったことで、相乗効果が出てきており、この手の地域アートイベントにおいては、かなりレヴェルが高いものだったと断言できるだろう。全ての地域アートが範とすべき良展覧会。個人的には浴場に漢字をグラフィティした高木薫女史の作品(右画像参照)が最も良かった。

 

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・百瀬文「サンプルボイス」展(3.8~30 横浜美術館アートギャラリー1)
 これまで映像とそれが映すシチュエーションと音声の相互関係がある種脱臼したような状態を周到にしつらえた映像作品を制作し続けている百瀬文(1988~)女史。横浜美術館内の小スペースを用いて行なわれたこの展覧会では三つの映像作品が展示されていたが、中でも百瀬女史が声優の小泉豊氏にいろいろインタビューする様子をアニメと実写とを交互に切り替えながら映しだしていく映像作品《The Recording》は、百瀬女史の持ち味が良い形で現われており、ついつい見入ってしまった。他にもテルミン奏者の演奏をストレートに映した作品も、地味ながら彼女の映像作品の方法論的な原風景となっていて、こちらも良い。

 

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・「“Material and Form ”in a digital age」展(9.26~10.23 Yoshimi Arts)
※出展作家:レイチェル・アダムス 上出惠悟 笹川治子
 「デジタル時代における「質料と形相」」という、タイムリーかつ巨大なタイトルを冠したこの展覧会。個人的には日本初紹介となるレイチェル・アダムスの作品が新鮮で、なおかつ上のテーマともかかわって非常に興味深かった。デジタル化が単なる情報処理の体制の高速化にとどまらず、私たちの認識の機制自体を変えているのではないかという所説自体は以前からあちこちで言われていたが、「質料と形相」というアリストテレス以来の古典的な問題系においてそれがここ数年加速度的に進行していることと両の目で見てみると、たった三人の出展作家とは言え、ピリッと効いた展覧会となっていたと言えるかもしれない。